アスピリン喘息疑患者問診不充分ボルタレン投与ショック死

   問診不十分投薬ショック死の怖さ


問診不充分ボルタレン投与ショック死事件―医師側敗訴
広島高等裁判所平成4年3月26日判決(判例タイムズ786号221頁)


アスピリン喘息(あすぴりんぜんそく)、問診(もんしん)、負荷試験(ふかしけん)、アナフィラキシー様ショック(あなふらきしーようしょっく)


 鼻茸手術を受けた患者にアスピリン喘息を疑わせる症状があったのにかかわらず、問診によっては発作歴を聞き出せなかったというだけで、負荷試験を実施することなく、アスピリン喘息の誘発物質である酸性解熱鎮痛剤ボルタレンを投与し、そのため患者をショック死させたことについて、医師に過失があるとした事例である。


 「アスピリン喘息の診断手順は前認定のとおりであり、アスピリン喘息の臨床像の特徴である中年発症、通年型、慢性型、鼻茸の合併、アトピー因子の関与が少ない等の症状を示す症例にあっては、アスピリン喘息ではないかと疑って十分に検索する必要があるところ、Xは入院後暫くしてからY医師に対し鼻茸があるとの事実を告げ、昭和58年5月25日の教授回診により、Xが右アスピリン喘息の臨床像の特徴を備えているところから同女がアスピリン喘息に罹患している可能性を疑ったA教授が、Y医師に対し、薬物の既往歴について再度チェックし、アスピリン喘息の罹患の有無を検討するよう指示したこと、右検索のためにはアスピリン喘息の誘発物質である各種の酸性解熱鎮痛剤(酸性非ステロイド性抗炎症薬)による発作誘発歴を詳細に問診することが必要であり、問診によっても誘発歴が確定的でない場合には負荷試験を行うことが必要となること、ボルタレンも酸性非ステロイド性の鎮痛、抗炎症剤であって、アスピリン喘息又はその既往歴のある患者には投与してはならないものとされていることは、いずれも前認定のとおりである。

 そうして、Y医師はA教授の指示に基づき再度Xに対する問診を右同日に行ったが、右問診においても、Xが県立病院に入院した原因がボルタレン又は、バカシルのいずれかの服用が原因の薬物アナフィラキシーであるとの事実を聞き出せなかったことは前認定のとおりであるが、〈書証番号略〉、証人B、同X、同Aの各証言によれば、アスピリン喘息患者でも、喘息発症前にはアスピリンなどの鎮痛解熱剤を服用しても全く異常はなく、喘息発病後も、ある期間は服用しても呼吸困難発作を起こしておらず、負荷試験により初めて過敏性の保有が認められる者があることが認められるところ、前認定のとおり、Xにはアスピリン喘息を疑わせる症状があったのであるから、たといY医師の再度の問診の結果Xがボルタレンなどの鎮痛解熱剤によって喘息の発作ないしはアナフィラキシー様ショックを引き起こした事実を聞き出せなかったとしても、それだけでXはアスピリン喘息ではないと確定診断を下すことはできず、負荷試験を実施しない限り、Xがアスピリン喘息であるとの疑いはそのまま残っているものと言わざるを得ない。

 ところが、前認定の事実並びに〈書証番号略〉、証人Bの証言によれば、同医師は、当日学会に出張して控訴人病院を留守にしていたY医師に代って病棟に待機していたが、鼻茸の手術を終えたXが鼻部疼痛を訴えるので、同女に鎮痛剤を与えるべく、Y医師が記載したカルテ等によって禁忌の薬剤をチェックしたところ、カルテには「ピリン禁」とは記載してあったが、薬による喘息発作の既往歴なしとの記載があったところから、B医師はY医師による問診の結果Xのアスピリン喘息の疑いは払拭され、したがってボルタレンを含む酸性解熱鎮痛剤に対し禁忌ではないものと即断して、Xにボルタレン2錠の経口投与を指示したことが認められ、また証人Cの証言によれば、アスピリン喘息患者に用いる鎮痛剤としては、酸性解熱鎮痛剤でない非麻薬系の鎮痛剤があり、やむを得ずボルタレン等の酸性解熱鎮痛剤を用いる場合には、錠剤を砕いて患者の舌の先に少し乗せて暫く様子を見る等して安全を確かめてからこれを使うべきであることが認められる。

 右認定の事実によれば、前示のとおりアスピリン喘息の患者にはボルタレンを使用してはならないとされているのに、B医師は、アスピリン喘息とは断定はできないもののその疑いが残っていたXに対し、同女はアスピリン喘息患者ではないとの誤った判断を下して、ボルタレン2錠をいきなり使用した過失があるといわなければならない。」


最終更新日: 2006年11月14日