第1章

症状による診断へのアプローチ

(C) 医療研修推進財団
血便・粘血便
研修必須事項

出血(貧血)の程度を直ちに把握し,重症度に応じた処置を行う(ショック,出血への対応:第2章 救急へのアプローチ─5「ショック」,第3章 対症療法─5「輸液・輸血」 も参照).
*一般に下部消化管からの出血ではショックをきたすほどの大量出血はまれである.
理学的所見を丹念にとり(全身診察を怠ることなく),排出便は必ず自分の目で確認する,直腸診も忘れずに行う.
日常の排便状況(いきみなど),排便回数,便の性状,薬剤服用歴を必ず問診する.
速やかに出血源に対する諸検査を行い,情報を収集する.
便培養も必ず行う(直腸スワブでも構わない).



〔血便・粘血便に関する基礎知識〕   〔血便・粘血便へのワークアップ〕
  ・血便・粘血便の機序      
         
〔血便・粘血便の診断・鑑別に必要な検査〕
 
・緊急大腸内視鏡検査   ・出血シンチグラフィー
・注腸造影・小腸造影検査   ・選択的血管造影
・上部消化管内視鏡検査   ・腹部CT・超音波検査
         
〔主な出血源の鑑別診断〕   〔参考文献〕


  血便・粘血便に関する基礎知識

[血便・粘血便の機序]
粘膜血流低下に伴う虚血の結果,潰瘍,びらん形成し出血するもの(多くの感染性腸炎抗生物質起因性腸炎などは多少なりとも粘膜末梢血管の虚血という機序が加わっている).
粘膜血管の破綻に伴う出血.
粘膜炎症性変化に伴う出血.
腫瘍性病変からの出血.
その他(上部消化管出血).
   

〔血便・粘血便に関する基礎知識〕   〔血便・粘血便へのワークアップ〕
ページトップへ戻る 先頭へ戻る
〔血便・粘血便の診断・鑑別に必要な検査〕
〔主な出血源の鑑別診断〕   〔参考文献〕


  血便・粘血便へのワークアップ

血便・粘血便をみたら,まず全身状態,程度を把握する.排出便の観察を怠ってはならない.また一般的に上部消化管出血(吐血)に比べて血圧低下,ショックなどを生ずる頻度は少ないが,下血を生ずる疾患は多彩であり,中にはショックなど急激な状態の変化を伴うものがあることを認識しておく.また小腸からの出血の可能性は常に念頭に置いておき,そのアプローチを検討する.
図1に血便・粘血便へのワークアップのフローチャートを示す.
 
図1 血便・粘血便へのワークアップ
図1 血便・粘血便へのワークアップ

1. 病歴・臨床症状
  臨床病歴,理学的所見で診断を想定できることがある.細菌性腸炎や虚血性腸炎,抗生物質起因性腸炎,潰瘍性大腸炎,クローン病などは臨床的特徴を念頭において可能な限り詳細な病歴をとり,診察を丹念に行う.腹痛を伴う場合はその部位を丹念に診察する.腫脹した腸管や腫瘤性病変を触知することがある.直腸診はいかなる場合でも禁忌とはならず,必ず行う.また,ときに腸管の異所性子宮内膜症が原因となることもあるので,月経周期との関連なども確認する.放射線治療の既往歴も診断の一助となることがる.Scholein-Henoch 症候群などの全身疾患の腸症状で血便をみることがある.
 
2. 便の性状
  観便にて,血液そのものか(鮮紅色,暗赤色,黒色,凝血塊),血液混合便か(暗赤色,黒色),正常便表面に血液が付着しているのか,粘液を混じているか,を必ず確認する.血液の変性色で大まかな部位を類推できる.上部消化管出血では通常タール便となるが,大量出血では赤色血液の排出をみることがあるので注意を要する.痔出血は鮮紅色となる.
   

〔血便・粘血便に関する基礎知識〕   〔血便・粘血便へのワークアップ〕
ページトップへ戻る 先頭へ戻る
〔血便・粘血便の診断・鑑別に必要な検査〕
〔主な出血源の鑑別診断〕   〔参考文献〕

 

 


  血便・粘血便の診断・鑑別に必要な検査

[緊急大腸内視鏡検査]
全身状態のゆるす限り,直ちに前処置なしで下部消化管内視鏡検査を行う(検査時期が早いほど診断率は高い).多くの血便には下痢を伴うことが多く前処置を行わずとも挿入できる.粘膜の状態(浮腫,発赤,潰瘍,びらん,憩室,腫瘍性病変などの有無,静脈瘤,毛細血管拡張の存在),出血の部位,内視鏡所見で確診がつくことがある(虚血性腸炎,急性出血性直腸潰瘍,薬剤起因性出血性腸炎,潰瘍性大腸炎,クローン病,大腸癌など).一方で出血源がわからない場合があることも認識しておく.また,粘膜の生検,腸液,粘液の採集・培養にて診断に至ることも多い.
 
[注腸造影・小腸造影検査]
緊急性のある場合は適応とならないことが多い.待機的に病変の広がりや程度を把握する際に有用である(クローン病など).
 
[上部消化管内視鏡検査]
大量の上部消化管出血の場合(出血性十二指腸潰瘍など)は吐血を認めず,下血(赤色,血液色)のみを認めることがある.このような場合,多くは血圧低下など全身状態の悪化を伴う.全身状態の是正とともに上部消化管の検索も行う.
 
[出血シンチグラフィー]
0.05ml/分の出血を検出可能である.出血源が大まかな場所でしかわからないので,出血源が緊急大腸内視鏡などで不明の際に効果的なことがある.小腸出血などでは有効である.
 
[選択的血管造影]
0.5ml/分以上の出血を検出する.侵襲を伴う検査であるが大腸静脈瘤などの検出には効果的である.また出血源同定後引き続き選択的血管塞栓術を行いうる.
 
[腹部CT・超音波検査]
最近のCTは解像度が高く腸管病変の評価に大きく寄与する.また心房細動などの不整脈に伴う腸間膜動脈閉塞・塞栓症でも血便をきたす.腹膜刺激症状を欠く激しい腹痛の場合,腹部超音波(ドップラーエコー)や腹部造影CTで診断可能である.
 
*トピックス
最近カプセル内視鏡やダブルバルーン小腸内視鏡の開発により,深部・小腸よりの出血源の確認や,止血の報告例が増加している.

〔血便・粘血便に関する基礎知識〕   〔血便・粘血便へのワークアップ〕
ページトップへ戻る 先頭へ戻る
〔血便・粘血便の診断・鑑別に必要な検査〕
〔主な出血源の鑑別診断〕   〔参考文献〕


  主な出血源の鑑別診断

主な出血源の鑑別診断は図1に示した.

 
〔血便・粘血便に関する基礎知識〕   〔血便・粘血便へのワークアップ〕
ページトップへ戻る 先頭へ戻る
〔血便・粘血便の診断・鑑別に必要な検査〕
〔主な出血源の鑑別診断〕   〔参考文献〕



参考文献
(1) Jensen, D.M., Machicado, G.A.: Diagnosis and treatment of sevsre hematochezia-the role of urgent colonoscopy after purge. Gastroenterology, 95: 1569-1574,1988.
(2) 勝又伴栄,五十嵐正広,小林清典,横山薫,佐田美和,西元寺克禮:大腸出血へのアプローチ. 消化器内視鏡, 11:1233-1239,1999.
(3) 多田正大,尾前美弥子,清水誠治,他:消化管出血をきたす疾患と鑑別診断(2)下部消化管. 臨床消化器内科, 3:525-531,1988.
(4) Browder, W., Cerise, E.J., Litwin, M.S.: Impact of emergency angiography in massive lower gastrointestinal bleeding. Ann. Surg., 204: 530-536,1986.
(5) 多田正大:下部消化管からの急性出血に対する緊急大腸内視鏡. 消化器内視鏡, 11:817-821,1999.
   


最終更新日: 2006年 8月 16日
執筆者名:村瀬邦彦,所属:中対馬病院