1章

症状による診断へのアプローチ


(C) 医療研修推進財団

 

浮腫 

 

研修必須事項

 

浮腫の分布を調べる:全身性か,局所性か?

体重は増えていないか?

Pitting(圧痕性)か,non-pitting(非圧痕性)か?

静脈の怒張はないか?

内臓系の浮腫は大丈夫か?:起座呼吸,喘鳴,腹部膨満,下痢,腹痛

浮腫に関連した検査上の異常はないか?

 


 

〔浮腫についての基礎知識〕

 

〔浮腫へのワークアップ〕

 

〔参考文献〕

 

・浮腫とは?
・浮腫はどうしておこるか?

 

 

 




  浮腫についての基礎知識

 

[浮腫とは?]

水分が特定の部位に異常に貯留した状態,多くは細胞外液が間質に貯留した状態をさす.

 

[浮腫はどうしておこるか?]

一般的にはStarling の法則に基づき,血漿膠質浸透圧が低下するか,毛細管の静水圧(静脈圧,リンパ管圧)が上昇した際に生じる(図1)(文献1).

 

 

1 浮腫のおこるメカニズム

図1 浮腫のおこるメカニズム

 

 

浮腫はStarlingの法則から,下記の原因により毛細管ろ過量(F)が亢進した状態でおこる.

 

 

 

 

 

C↑

アレルギー,炎症による透過性亢進

 

Pc↑

volume overload,鬱血・リンパの鬱滞

 

Ppo↓

低タンパク血症

 

 

 

 

動脈圧は細動脈レベルでの調節があり,毛細管圧への影響は少ない.特殊な場合として炎症などにより,毛細管の透過性が亢進したり,粘液水腫(甲状腺機能低下症)など間質に親水性物質が沈着しておきることもある.

 

 

 

 

 

 

〔浮腫についての基礎知識〕

〔浮腫へのワークアップ〕

〔参考文献〕

 


  浮腫へのワークアップ(図2,文献2,3)

 

 

1.

全身性か局所性か?

 

全身性

血漿膠質浸透圧の低下>管内静水圧の上昇

局所性

血漿膠質浸透圧の低下<管内静水圧の上昇,毛細管の透過性亢進

 

 

低タンパク血症やvolume overload(腎不全,過剰輸液)などの血液成分の異常では浮腫は当然,全身に及ぶ.心不全でも全身浮腫をきたすが,ほかの管内静水圧を上昇させる静脈血栓症やリンパ性浮腫では欝帯部位のみが腫脹する.蜂窩織炎や蕁麻疹,接触性皮膚炎などのアレルギー・炎症性疾患では毛細血管の透過性が亢進し,局所の腫脹を生じる.ただし,全身性浮腫であっても,臥位では顔が,座位・立位では下肢が腫脹する傾向にある.

 

 

 

 

 

2.

pittingかnon-pittingか?

 

Pitting

水分のみの増加? →通常の浮腫性疾患

Non-pitting

水分+親水性ムコ多糖類などの増加→粘液水腫

 

 

皮下組織に単に水分が貯留した状態では下腿の前頸骨部を指で圧迫すると圧痕が残る.皮膚が硬く,容易に圧痕を残せない場合は,水以外のムコ多糖類などが同時に沈着した粘液水腫を疑う必要がある.

 

 

3.

体重は増えていないか?

 

周期的な体重変動    :

多飲・多食症、突発性浮腫、月経に伴う浮腫

確実な体重増加

心・腎不全、肝硬変、粘液水腫

 

 

1日あるいは数日の周期で体重が増減を繰り返す場合は多飲・多食症や特発性浮腫、また女性では月経に伴う浮腫を考慮する。少量でも確実に増えている場合は多くの重篤な疾患の可能性があり、精査・治療が必要である。

 

 

 

 

 

 

4.

静脈の怒張はないか?

 

外頸静脈→右心不全

腹壁静脈“Caput medusae”→門脈圧亢進(肝硬変など)

四肢の静脈→中枢側静脈の狭窄・閉塞(深部静脈血栓症など)

 

 

静脈の怒張が全身性におこることはまれで,その局在は病巣の特定に役立つ.

 

 

 

 

 

5.

内臓系の浮腫は大丈夫か?

 

起座呼吸,喘鳴→心不全,肺水腫

腹部膨満→腹水

下痢,腹痛→消化管浮腫

 

 

蕁麻疹などのアレルギー疾患の際に上記の内臓浮腫の所見があると,重症の兆候である.

 

 

 

 

 

6.

検査上の異常

 

検尿

タンパク尿→腎炎,ネフローゼ症候群

血液

低タンパク血症→腎炎,ネフローゼ症候群肝硬変
TSHの上昇→粘液水腫

X-P

肺鬱血(座・立位での上肺野への血流増加),心拡大,肺水腫
腹水(腸腰筋陰影の不鮮明化,paracolic gutterの開大)

ECG

左房負荷(broad or biphased P on II, III, aVF, V1, V2

 

 

タンパク尿があっても,腎疾患でないことがある→熱性(消耗性)タンパク尿.

 

 

 

 

 

7.

浮腫のみでほかの異常がないとき

 

特発性浮腫

女性に多く,日内変動が大きい.鑑別診断上,最後に残る疾患

 

 

浮腫が顔,四肢に限られ,内臓系の浮腫がなく,種々の検査上も異常がない場合,特発性浮腫と考えられる.細小動脈の自己収縮不全により立位で静水圧が上昇することが一因と推定されている. 通常は周期的な体重変動をきたすが、漸増性増加はみられない。

 

 

 

 

 

2 浮腫の鑑別診断

図2 浮腫の鑑別診断

 

代表的疾患をあげた.最終的除外診断は特発性浮腫である.

 

 

〔浮腫についての基礎知識〕

〔浮腫へのワークアップ〕

〔参考文献〕

 

 


参考文献

 

(1)

磯崎泰介、菱田明:症候から診た浮腫の鑑別診断と検査. 猿田享男監修、林松彦編 浮腫対策―鑑別と治療の手引きー ヴァン メディカル p。11-22, 2000.

(2)

鈴木泰三,星猛編:臨床生理学 上巻,南山堂: 407-412, 1979.

(3)

川村祐一郎:浮腫(1) 循環器系. 亀山正邦,亀田治男,高久史麿編. 今日の診断指針 第4版 医学書院: 31〜33, 1997.

(4)

黒川清:浮腫(2) 非循環器系. 亀山正邦,亀田治男,高久史麿編. 今日の診断指針 第4版 医学書院: 33〜35, 1997.

 

 

 


最終更新日: 2006年 07月 26日
執筆者名:前田益孝,所属:総合病院取手協同病院 内科