第9章 感染症

(C) 医療研修推進財団
髄膜炎
研修必須事項

髄液検査(腰椎穿刺)の手技を身につける.
髄液の検査結果が解釈できる.
髄膜炎の初期治療が行える.
専門医をコールするタイミングが判断できる.



〔治療手順〕   〔知っておくべき知識〕   〔治療後の注意点〕   〔参考文献〕


  治療手順

 
重要 原因(ウイルス性,細菌性,結核性,真菌性など)の推定で迷ったら専門医をコールする.
 
1.

ウイルス性髄膜炎を考えた場合初期治療

 
(1) 免疫能が正常な成人の市中感染したウイルス性髄膜炎の予後は良好で,自然治癒が期待できるので通常は対症療法で経過を観察する.
       
(2) 髄液圧が高ければ,あるいはCTで脳浮腫が認められれば濃グリセリン・果糖(グリセオール(R)など)を点滴で投与する.
  成人例 グリセオール 200mlを1時間かけて8時間ごとに1日3回,あるいは12時間ごとに  1日2回点滴投与
(3) 頭痛が強く我慢できなければ鎮痛剤を投与する(できるだけ我慢).
  成人例 ロキソプロフェン(ロキソニン(R)など)60mg/回やアセトアミノフェン(ナパ(R),カロナール(R)など)500mg/回などを頓用で経口投与.
(4) 抗菌薬の投与は行わない.
(5) 意識障害があれば髄膜脳炎の可能性があるので,アシクロビル(ゾビラックス(R) など)を点滴で投与する.この場合は専門医をコールする.
  成人例 アシクロビル10mg/kgを生食100mlに溶かし,1〜2時間かけて8時間毎に1日3回点滴投与.

 

2.

細菌性髄膜炎を考えた場合の初期治療

 
重要 細菌性髄膜炎は緊急疾患で,初期治療が不十分であった場合に,不可逆的な脳障害を残したり死亡することがある.細菌検査の結果,初期治療が不適切であったと判明した段階で,適切な治療薬に変更することで改善する肺炎や感染性腸炎とは治療方針が異なる.従って,細菌性髄膜炎の初期治療は抗菌薬の種類や量が過剰投与となっても止むを得ない.髄液検査で細胞数が増加しており,しかも好中球が圧倒的に多ければ細菌性髄膜炎が考えられるので,細菌培養用の髄液と血液を確保後にできるだけ早く初期治療として,下記の1)に示した抗生物質の投与を開始する(経験的治療 empiric therapy).適切な初期治療が行えるか否かが患者の予後を左右する.抗菌薬投与前に髄液のみならず細菌培養用の血液を採取することが重要である.
重要 髄膜炎患者がそれと気づかれずに既に前医で抗菌薬を投与され(経口,経静脈を問わず),そのため細菌性髄膜炎が不充分な治療を受けた状態にある(partially treated)のか,それとも細菌性以外の他の髄膜炎なのかに関して,髄液検査の結果が自分で判断できないときにはためらわずに専門医をコールする.
 
  (1) メロペネム(MEPM メロペン(R) 成人例:2.0g/回を8時間ごとに0.5〜1時間で点滴投与)+バンコマイシン(VCM バンコマイシン(R) など 成人例:1g/回を12時間ごとに0.5〜1時間で点滴投与)
 
  (2) 濃グリセリン・果糖,鎮痛剤については上記のウイルス性髄膜炎と同じ.
     
  (3) 細菌性髄膜炎では抗菌薬により破壊された細菌からペプチドグリカン,エンドトキシンなどの物質が出る.これらの物質はTNF-αやIL-1などの産生を引き起こし,病勢の悪化に関与すると考えられている.TNF-αやIL-1などの産生を抑制する目的で,ステロイドを併用する.ただし,既に抗菌薬の投与を受けている患者では不要である.
成人例:デキサメタゾン(デカドロン(R) など)10mg/回 6時間ごと静注 2〜4日間で中止する.最初の投与は抗菌薬投与10〜20分前に投与
 
3. 結核性髄膜炎を考えた場合の初期治療
重要 結核性髄膜炎を疑った場合は専門医をコールする.
 
次の(1)または(2)を開始する(成人例).
  (1) イソニアジド(INH イスコチン(R),イソニアジド(R) など) 400〜500mg/回(1日1回 経口) + リファンピシン(RFP リファジ ン(R),リマクタン(R) など) 450〜600mg/回(1日1回 経口) + エタンブトール(EB エブトールR,エサンブトールR) 750mg/回(1日1回 経口 あるいは500mg/回 1日2回 経口) + ピラジナミド(PZA ピラマイド(R)) 400〜500mg/回(1日3回 経口)
 
  (2) イソニアジド(INH イスコチン(R),イソニアジド(R) など) 400〜500mg/回(1日1回 経口)+ リファンピシン(RFP リファジン(R),リマクタン(R) など) 450〜600mg/回(1日1回 経口) + ストレプトマイシン (SM ストレプトマイシン(R)) 1g/回(1日1回 筋注)+ピラジナミド(PZA ピラマイド(R)) 400〜500mg/回(1日3回 経口)
 
  (3) 結核性髄膜炎では癒着による髄液腔の閉塞を防ぐ目的で,ステロイドを併用する.
    成人例: プレドニゾロン60mg/日で開始し,漸減して4〜6週間で中止する
 
  (4) INHによる末梢神経障害を防ぐ目的で,ビタミンB6 (ピリドキサール)を併用投与する(INH 100mgあたり10mg/日の割合でピドキサール(R) などを経口投与).
 
4. 真菌性髄膜炎を考えた場合初期治療(通常の成人市中感染例)
重要 真菌性髄膜炎を疑った場合は専門医をコールする.
重要 クリプトコッカスによるものが多い.
(1) アムホテリシンB(AMPH ファンギゾン(R))0.7〜1mg/kg/日(24時間持続点滴)+フルシトシン(5-FC アンコチル(R) など)100mg/kg/日を分4で経口投与
(2) アムホテリシンB(AMPH ファンギゾン(R))0.7〜1mg/kg/日(24時間持続点滴)+フルコナゾール(FLCZ ジフルカン(R) など) 200mg/回を1日2回(12時ごと) 点滴投与
AMPHは0.25mg/kg/日から開始し,速やかに上記の量に漸増する.
 

 

治療手順〕 〔知っておくべき知識〕 〔治療後の注意点〕 〔参考文献〕
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  知っておくべき知識

1. 疾患の基礎知識や病態
 
(1) 髄膜炎を疑った場合に,成書によっては頭部CTを撮影して頭部の占拠性病変のないことを確認してから髄液検査を行うことと記している.しかし,緊急にCTの撮影ができない場合などは,細い針で注意深く髄液検査を行い,採取髄液量を少量にすれば,髄液検査を行ってもよいと思われる(筆者の経験では).なお,CTは単純でよく,もし占拠性病変を思わせる所見があれば,専門医をコールする.
(2) 教科書等に髄膜炎では項部強直を認めると書かれているが,全ての髄膜炎で認められるも    のでもない.髄膜炎の可能性が低いと判断しても,髄液検査を行った結果,髄膜炎と判明する例は多い.
(3) 採取した髄液を用いて細胞数とその種類,蛋白および糖の濃度,細菌と真菌の塗抹および培養の諸検査行う.結核性髄膜炎の可能性があれば,結核菌の塗抹および培養以外にPCRも行う(nested-PCRが望ましい).
(4) 悪性疾患のある患者では癌性髄膜炎となることがある.基礎疾患の有無を患者本人あるいは家族から聴取し,そのような症例であれば髄液の細胞診も提出する.
(5) 髄液検査と並行して,血算,血清CRP測定,血糖測定および血液細菌培養検査を行う.
(6) 患者が緊張した状態で腰椎穿刺を行えば圧が高くなる.また,traumatic tapとなってしまっても慌てない.
(7) 主要髄膜炎の髄液所見(表)
(8) 日常の臨床現場で出会う感染性髄膜炎ではウイルス性髄膜炎が圧倒的に多く,ついで細菌性髄膜炎である.ウイルス性髄膜炎ではエンテロウイルス属による症例が多い.
(9) ウイルス性髄膜炎の早期の髄液細胞は,多核白血球数が単核球数よりも多くなることがある.
(10) ウイルス性髄膜炎では髄液以外に咽頭粘液や便もウイルス検査に提出するとよい.
(11) 国内では髄膜炎菌性髄膜炎はそれほど多い疾患ではないが,アフリカ髄膜炎ベルトと呼ばれるアフリカのサハラ砂漠南方から赤道北部にかけての地域からの帰国者や旅行者では髄膜炎菌性髄膜炎の可能性が高くなる.
(12) 細菌性髄膜炎では,ラテックス凝集反応による髄液の抗原迅速診断法も利用する価値がある.肺炎球菌,インフルエンザ菌(type b),髄膜炎菌,大腸菌,B群レンサ球菌(S. agalactiae )でキット化されている.
(13) 細菌性髄膜炎の起因菌として,新生児では溶連菌と大腸菌,生後6か月以後7歳位まではインフルエンザ菌と肺炎球菌,成人も含め7歳以上は肺炎球菌が多い.高齢者や肝疾患保有者,免疫障害者ではリステリアなども原因菌となる.
(14) クリプトコッカス髄膜炎では髄液のクリプトコッカス抗原測定も診断に有用である.
(15) 髄膜炎患者には輸液量が過剰にならないように注意する.
           
表 主要髄膜炎の髄液所見(参考文献6から一部改変引用)
  外観
(mmH2O)
細胞数
(/mm3)
タンパク
(mg/dl)

(mg/dl)
その他
正常 水様透明 70〜180 <5 15〜45 50〜80  
ウイルス性髄膜炎 水様
(日光微塵)
100〜300 10〜1,000
ほとんど
単核細胞
50〜500 50〜80 初期には多核白血球が増加する 例がある
細菌性髄膜炎 混濁,膿性 200以上

25〜10,000

ほとんど多核
白血球
50〜1,000 0〜40 ラテックス凝集反応も有用である
結核性髄膜炎 水様, ときに
キサントクロミー
200〜600 25〜1,000
単核細胞優位
50〜500 <40 結核菌の塗抹,培養以外にPCR  検査も行う
真菌性髄膜炎 水様, ときに
キサントクロミー
200〜600 10〜1,000
単核細胞優位
50〜500 <40 クリプトコッカスが多い

2. 治療方法の根拠と注意点
l 以前はアンピシリン(ABPC)+セフォタキシム(CTX)あるいはABPC+セフトリアキソン(CTRX)が細菌性髄膜炎に対する初期治療の主流であった.しかし,髄膜炎の原因菌に占めるペニシリン低感受性肺炎球菌(PISP)や耐性肺炎球菌(PRSP)の割合が増加し,我が国の成人肺炎球菌性髄膜炎患者の約80%はPISPやPRSPによるものとなった.(文献1)(III) ※以下( )のローマ数字はEvidence Levelを示す. これらの菌はABPC,CTX,CTRXに対する感受性がペニシリン感受性肺炎球菌よりも低いことが知られており,(文献2)(V) さらに,ABPC+CTXによる治療無効例も報告され,(文献3, 4)(W) ABPC+CTXやABPC+CTRXは初期治療として適切であるとは言い難くなった.細菌性髄膜炎全国サーベイランス研究班(1999〜2004年)によれば,我が国の6歳から49歳までの患者では60〜65%が肺炎球菌で,ついでインフルエンザ菌,さらにその他のレンサ球菌や髄膜炎菌による例が散見され,50歳以上や免疫能低下が考えられる患者では上記の起因菌に加え,大腸菌,黄色ブドウ球菌,クレブシエラ属,緑膿菌などのブドウ糖非発酵菌,リステリアなどがみられるとのことである.(文献5)(W) また,我が国の成人細菌性髄膜炎患者から分離される起炎菌として,報告者自験例であるが,肺炎球菌が34%,ブドウ球菌が32%,B群レンサ球菌が13%,肺炎桿菌が8%,インフルエンザ菌が8%,リステリアが5%との報告がある.(文献6)(V) したがって,初期治療ではこれらの菌種に有効な抗菌薬を投与する必要がある.(V) 
   
l 我が国で分離された上記の髄膜炎起因菌に対し,カルバペネム系抗菌薬は他の系統の抗菌薬よりも一般的に高い感受性を示す.(文献2, 7)(V) しかし,イミペネム(IPM)は痙攣を誘発する可能性があり,ピアペネム(BIPM),ドリペネム(DRPM)は髄膜炎に対する使用経験が乏しいことから,MEPMあるいはパニペネム/ベタミプロン(PAPM/BP カルベニン(R))がよいと考えられる.PAPM/BPはインフルエンザ菌に対する抗菌力が弱い欠点があるが,(文献7)(V) 成人患者でインフルエンザ菌の可能性が低ければ,効果的な薬剤である.
成人投与例:PAPM/BP(1.0g/回を6時間ごとに30分〜1時間で点滴投与)+VCM (1.0g/回を12 時間ごとに0.5〜1時間で点滴投与) 
免疫能が正常な成人であればカルバペネム系抗菌薬の単剤でもよいようにも思われるが,カルバペネム系抗菌薬にVCMあるいはセフェム系抗菌薬(CTX,CTRX)の併用を勧める報告があり(文献4)(W),担保の意味もあるためVCMを併用することを勧める.
   
l 髄膜炎に対するVCMの投与については,血中レベルを上げるため,1回0.5gを1日4回投与するよりも,1回1gを12時間ごとに投与する方がよいとする考えがあり,(文献8)(W) 本書ではこの考えに従った.
   
l 最初の24時間以内に不適当な抗菌薬による治療を受けた細菌性髄膜炎患者では死亡率が高いとされており,(文献9)(U) 細菌性髄膜炎を疑ったら細菌検査用に髄液と血液を採取した後に,直ちに上述したような適当な抗菌薬を充分量投与しなければならない.
   
l 細菌性髄膜炎に罹患した成人を対象とした海外の調査で,デキサメタゾン投与を受けた群と受けない群を比較すれば,投与を受けた群は対照群に比較して予後の悪化を認めなかったと報告されている.(文献10)(T) 我が国の小児を対象とした調査でも同様の結果が報告されている.(文献11)(U)
   
l クリプトコッカス髄膜炎の治療のpractice guidelineとして,AMPHと5-FCの併用慮法を勧める意見がある.(文献12)(V) また,動物実験であるが,AMPHとFLCZの併用がクリプトコッカス髄膜炎に対する治療効果に優れているとする報告もある.(文献13)(U)
           

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  治療後の注意点

(1) 細菌性髄膜炎や真菌性髄膜炎では,病原体の種類や薬剤感受性検査の結果が判明した後に,必要に応じて前述の初期治療からより狭域の抗菌薬の単剤や併用(ABPCやCTRXなど),抗真菌薬の単剤や他の抗真菌薬の併用に変更する.細菌性髄膜炎の場合は,耐性菌を増加させないために,初期治療で使用していたカルバペネム系抗菌薬やVCMは可能な限り使用しないことが望ましく,ベンジルペニシリン,ABPC,CTX,あるいはCTRXが有効な菌であればそれらの抗菌薬に変更する.投与薬剤や投与方法の変更は専門医に依頼する.
   
(2) 当初はABPC+CTRXで治療し原因菌がPISPと判明したため,MEPM/BP+VCMに変更したにもかかわらず効果がなく,ABPC+CTRX+ MEPM/BP+VCMで治療した細菌性髄膜炎の症例が報告されている.(文献14)(W) 初期治療としてのカルバペネム系抗菌薬+VCMが効果がなければ,ABPCやCTRXの追加を行うことも考慮する.薬剤の追加なども専門医に依頼する.
 


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参考文献
(1) 小林玲子,千葉菜穂子,長谷川恵子,諸角美由紀,鈴木悦子,生方公子,岩田 敏,砂川慶介.化膿性髄膜炎・全国サーベイランス2年間のまとめ−肺炎球菌性髄膜炎について−.日化療会誌 51(Suppl. A): 15, 2003.
(2) 山口惠三,石井良和,岩田守弘,他.Meropenemを含む各種注射用抗菌薬に対する2004年臨床分離株の感受性サーベイランス.Jpn J Antibiotics 58: 655-689, 2005.
(3) 上谷英里,岡本憲省,奥田文悟.脾臓摘出10年後にペニシリン耐性肺炎球菌性髄膜炎を発症したoverwhelming post splenectomy infection syndromeの1例.神経内科 63:469-472, 2006.
(4) 井桁之総,石黒幸司,岡本幸一.ペニシリン耐性肺炎球菌による髄膜炎の1成人例.臨床神経44:1154-159, 2004.
(5) 石川晴美,亀井 聡 1.成人の化膿性髄膜炎の治療. 脳神経 58. 101-107, 2005.
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(8) 栗原照幸.治療薬の種類とその選択.Clin Neurosci 23: 737-740, 2005.
(9) Durand ML, Calderwood SB, Weber DJ, Miller SI, Southwick FS, Caviness VS, Swartz MN. Acute bacterial meningitis in adults -A review of 493 episodes-. N Engl J Med 328: 21-28, 1993.
(10) de Gans J, van de Beek D. Dexamethasone in adults with bacterial meningitis. N Eng J Med 347:1549-1556, 2002.
(11) 砂川慶介. 化膿性髄膜炎等の重症感染症例に関するアンケート調査による解析−患者背景因子,後遺症および起炎菌との関係−.Jpn J Antibiotics 59: 152-164, 2006.
(12) Saag MS, et al. Practice guidelines for the management of cryptococcal disease. Clin Infect Dis 30: 710-718, 2000.
(13) Larsen RA, Bauer M, Thomas AM, Graybill JR. Amphotericin B and fluconazole, a potent combination therapy for cryptococcal meningitis. Antimicrobial Agents Chemother 48: 985-991, 2004.
(14) 森田昭彦,小川克彦,亀井 聡,大石 実,水谷智彦,細川直登,熊坂一成.ペニシリン耐性肺炎球菌性髄膜炎の1例−抗生剤選択についての一考察−.神経治療 20:571-575, 2003.
(15) 庄司紘史. 髄膜炎. 外来診療のすべて改訂第2版 高久史麿 総監修 メジカルビュー 東京, 514-515, 1999.
           

最終更新日: 2006年 09月 28日
執筆者名:大西健児,所属:東京都立墨東病院感染症科