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テルモ株式会社 |
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| ●はじめに | ||
| テルモの和地です。 このような場で、お話をさせていただくことは、誠に光栄であり、感謝いたします。また、日頃は医療機器産業および当社の活動に対しまして、ご支援ご協力をいただいておりますことに、高い席からではございますが、厚く御礼申し上げます。専門家の皆様の前でお話するのは、大変おこがましく、緊張しますが、日頃ご指導をいただいております阿部先生から何でも話していいといわれましたので、ややお耳障りな話もあるかと思いますが率直にお話させていただきます。 私は、日本の医療機器に関する主要な業界団体20団体を束ねる、日本医療機器関係団体協議会、略して、日医機協といっておりますが、この日医機協の会長を2年前からつとめております。日医機協の中には、MRI、CTスキャンなどの大型の診断機器を扱う団体や、ディスポーザブル医療器などの医療材料を扱う団体をはじめ、歯科、眼科、一般向け健康器具の団体など、さまざまな医療機器を扱う団体が加盟しております。各団体の会員企業を併せますと、4000社にのぼり、日本の医療機器市場の90%以上をしめております。 |
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| ●医療機器の市場 | ||
| 医療機器の世界市場は約20兆円といわれています。その内、米国が約45%を占め、日 本の国内市場規模は、約11%で約2兆円強です。10年前と比較しますと、約1.5倍となっていますが、最近の5〜6年は、ほぼ横ばいとなっています。ちなみに、医薬品の国内市場は約7兆円です。 日本の医療機器産業の特徴を端的に述べますと、CTスキャンやMRIなどの診断用の機器は、それなりの国際競争力を持っていますが、ペースメーカーや血管内治療カテーテルなどの治療用の機器は輸入品の比率が高く、国際競争力が弱いということです。 このような現状ではありますが、私は、ここ数年の間、医療機器についてさまざまな角度から光が当たり始めたと感じています。これまでは、医療機器はあくまでも治療のための道具でした。ところが、近年、内視鏡やカテーテル治療にみられるように、患者さんにとって傷や痛みなどの体への負担が小さい治療や、ロボット治療など、医療機器が新しい治療を生み出して来ています。言い換えれば、従来、医療において脇役的存在であった医療機器が、ここに来て、主役としても注目されることになり、医療における役割が大きく変化してきた、ということができます。 |
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| ●医療機器の貢献 | ||
| このように、医療機器に光があたってきた背景として、医療機器の医療への貢献が認められてきたことが大きく影響していると思います。 具体的には、@救命と延命 A患者さんのQOL B医療の安全性と効率化 C医療経済性 の4点に集約できます。 まず、「救命と延命」ですが、診断や治療が飛躍的にスピードアップしたことで、大きな貢献をしています。たとえば、PETなどの優れた画像診断技術による疾病の早期発見と、血管内治療カテーテルやステントなどによる、迅速な治療が可能となっています。また、高機能のペースメーカーや補助人工心臓など、長期にわたって体の機能の代わりを務める医療機器の開発も進められています。また、これから期待できる分野として、再生医療がありますが、この再生医療の実用化を担うのは医療機器メーカーではないかと思います。 次に「患者さんのQOL」は、患者さんにとって「痛みやキズが小さな医療」を提供できるようになったことは大きな進歩です。血管内治療カテーテルによる治療や、内視鏡を使った手術などによって、このような治療が可能となりました。また、整形インプラントの発展によって、患者さんの日常生活の向上も可能となりました。 三つ目の「医療の安全性と効率化」は、医療機関にとっても、昨今の大きなテーマだと思います。医療機器産業としては、医療事故防止の観点から、製品の改良や開発を進めてきました。たとえば、安全機構付の輸液ポンプや針刺し防止機構付のセーフティ医療器などを提供しています。現在も、セーフティな機器の開発に最注力をしております。また、環境安全という大きな視点から、脱塩ビ素材や改良した可塑剤を使った医療器の開発も進めてきました。 効率化という点では、病院における調剤や注射液を混ぜる業務の簡素化を図るため、注射器の中に予め薬を充填したシリンジやキットタイプの点滴(輸液)材などを提供しています。これらは医薬品の容器に工夫をして機能をつけ加えているという点で共通しており、医薬品と、医療機器のドッキングの好例でもあります。これらは、医療現場での業務の効率化と同時に、薬の取り違えの防止や感染防止など、リスクマネジメントの観点からもお役に立っています。 最後に、「医療経済性」については、たとえば、心臓疾患の場合、PTCAバルーンカテーテルやステントによる治療によって、従来の治療方法と比べて大幅なQOLの向上と同時に入院期間の短縮につながり、トータルでの医療費の削減に貢献しています。一例ですが、バイパス手術をした場合の医療費が約320万円ほどかかるのに対して、PTCAによる治療では、約100万円であり、医療費は約1/3になるというデータもあります。 このように、医療機器はさまざまな観点で医療に貢献をしています。 |
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| ●新しい医療機器開発への挑戦 | ||
| ここで、せっかくの機会ですので、当社が現在取り組んでいる新しい医療機器の開発について、いくつかご紹介したいと思います。 一つ目は、先ほど少し触れましたが、補助人工心臓です。これは、リニアモーターカーと同じ、磁気浮上の原理を用いて、血液を送り出すポンプの羽根車が軸に接触しないような構造になっており、そのために、血液の損傷や凝固のリスクを大幅に低減することができました。現在、ヨーロッパで臨床試験を進めており、15症例ほど埋め込みを行いました。既に、退院して、ショッピングを楽しんでいられる患者さんもいると聴いております。 人工補助心臓は、現在は心臓移植までのブリッジ使用が主体ですが、先ほど述べたように、いずれは永久使用をめざしたいと思います。 二つ目は、再生医療の一環として、心筋再生治療です。患者の足からとった、骨格筋細胞を、培養して、心筋梗塞などで心筋の機能が低下した患者の心臓に戻してやり、心筋の機能を補助・再生させる治療法です。神戸の医療産業都市の中に研究施設を構えて、実用化に向けた準備を進めています。 (足から取る理由としては、処置が安全で、患者さんの負担が少ない) 三つ目は、人工赤血球です。これは、リポソームという、一種のナノテク技術を応用したカプセルの中に、ヘモグロビンを入れた人工赤血球です。赤血球の膜がありませんから、血液型がありませんし、ウィルスなども完全に除去できますので、安全です。また、血液と比較して、長い間保存することも可能になります。また、このナノカプセルの中に、抗がん剤などの医薬品を入れて、副作用が少なく、ねらった部位に効果的に投与できる医薬品の研究なども進めています。 このように、当社としても、新しい医療機器や治療方法の開発に取り組んでおりますが、医療機器の開発は、医療機器メーカーだけでできるのではなく、医療に携わる皆様とのパートナーシップと連携が必要な事は言うまでもありません。今後も、新しい医療機器の開発が、新しい治療方法の開発に直結するという志を掲げて取り組んでまいりたいと思います。 |
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| ● 医療機器産業の本質的問題 | ||
| さて、医療機器の貢献と新しい医療機器の開発への取り組みをご紹介しましたが、医療機器を取り巻く環境が変化しつつあるとはいえ、医療機器の本質的な問題は、依然として解決したとは言えません。 そもそも、医療機器と医薬品は、患者さんの病気の予防、診断、治療などに使われるという点で、目的は同じですが、本質的には大きく異なるものです。医薬品の延長で扱われているという現実も多々あります。 たとえば、学問的、技術的には、医薬品に関しては「薬学」という専門分野があるのに対し、医療機器には「医療機器学」というのはありません。しかし、医療機器には化学や物理や電気などの幅広い工学や生物学など、多彩な学際的な学問分野と技術が必要です。それだけに、製品の種類も、メスやピンセットなどの小物から、体内に埋め込むペースメーカー、治療用のカテーテル、さらには、CTスキャンやMRIなどの大型の診断機器に至るまで、多種多様にわたります。また、医薬品の1万数千品目に対して、医療機器は約30万品目といわれています。 医療機器は、使い方、操作方法が、安全性や治療効果に大きく影響するという点でも異なっていますし、一回限り使用するものものと、繰り返し使用してメンテナンスを必要とする機器があることも異なる点です。 さらに、医薬品の場合は、医療機関に「薬剤部」という専門部署があるのに対して、医療機器の場合は、ME管理室などの専門部署の設置は未だ限られているのが現状です。 このように、医療機器は医薬品と比較して、より複雑で多岐にわたるものであり、医薬品とは本質的に大きく異なるわけですが、この点について、医療機器の関係者や専門家の間でも、一部の方を除いて十分に理解がされているとはいえません。率直に申し上げて、医療機器の役割と、それを支えるインフラの間でアンバランスが生じているといえます。医療機器が主役になってきても、舞台は薬の舞台のままということができます。 さらに、日本に特徴的な風土的な課題もあります。日本の企業は、高い技術力を持っていても、命にかかわることについては、万が一の場合を考えて、手をつけたがらないというマインドの問題があると思います。また、チャレンジに対する賞賛よりも、失敗に対する非難の方が強いという風土的な背景もあるかと思います。ある全国紙の編集委員と話をしたときに、画期的な医療機器を開発したらどうしますかと聞きましたら、それは、大いに褒め称える記事を書くといいました。それでは、万が一、何らかの失敗があったらどうするか、と聴きましたら、その時は、成功したときの何倍も厳しい記事を書いてたたくといっていましたが、これが、日本のマスコミの大方に共通するビヘイビアではないかと思います。 |
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| ● 医療機器産業発展に向けた課題 | ||
| 以上述べてきたことを総合的に踏まえ、医療機器産業の発展に向けた課題を次の5つの点に絞って述べたいと思います。
@ ひとつは、医療機器開発における「ベッドサイド開発の促進」ということです。 A二つ目は、医療機器を専門的に取り扱える人材の育成とトレーニング・システムの設置ということです。 B 三つ目は、医療機器の開発促進のための環境整備ということです。 C 四つ目は、医療機器の認知度の向上ということです。 D 五つ目は、医療機器産業が、成長産業のひとつと認められ、国の産業技術戦略の重点分野の一つとして取り上げられたことを受けての対応です。 余談になりますが、皆様の中には、日頃医療機器をお使いいただいている方もいらっしゃると思いますが、製品のアイデアは海外の優れたものが多くありますが、製品の品質ということでは、あるいは日本のもののほうが優れていると感じられていらっしゃるのではないかと思います。日本のものづくりのレベルは、いまだに世界のトップレベルにあると私は考えています。私どもも、世界各国に15の生産拠点を持っておりますが、品質のレベルは日本が抜群に高いということがいえます。これは、ものづくりに対するDNAの違いということができるかもしれません。たとえば、現在は閉鎖しましたが、以前オーストラリアに工場を持っておりました。しかし、オーストラリアというお国柄は、新しいものに対するアイデアは大変優れていますが、同じモノをきちんと均一に作るということが不得手なようで、製品が大きくばらつきます。実際、紙幣なども海外で作っているそうです。また、米国の工場から、輸入もしていますが、全品検査が必要です。彼らの意見を聴くと、日本の要求品質はクレージーだといいます。さらに、アメリカ、ベルギー、フィリピンと日本の甲府工場で、同じ全自動の機械を使って注射器をつくっていますが、甲府工場のモノが飛びぬけて高品質です。なぜ海外工場との差が出るのか? 前に日本の工場長に聞いたところ、「海外の工場では、機械が製品を作っている。」「我々の工場では、人が機械を使って製品を作っているのです」と言われました。それはどういう意味かと聞きますと、要は、機械をずっと愛情を持って見ていれば、機械のちょっとした変化がわかる。例えば、母親が子供の変化に、体温計には出なくても気がつくのと同じですよ、と言われました。(最近の母親はどうかわかりませんが) 異常警報装置が働く前に、そういう微妙な変化を感じ取って、アジャストするからいいものができるというわけです。日本人社員には、「製品は機械ではなく人がつくる」という自負や、「良いものをつくりたい」という志の高さがあります。このような高い意識を持って仕事に臨むことで、日本人は職人芸とも言うべき技能を身につけていきます。つまり、日本製品の高い品質を支えているのは、このような社員の技能であり、その大もとにある彼らの高い意識だったわけです。 最後に、日本の医療機器産業として、越えなければならない高いハードルがまだまだたくさんありますが、高い志を掲げて、よりよいモノづくりにチャレンジしてまいる所存です。 |
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